原田 啓一郎

生計困難者のために,無料又は低額な料金で宿泊所等を利用させる「無料低額宿泊所(無低)」の歴史は古く,その源流は明治期の篤志家が生活困窮者のために開設した無料宿泊施設に遡ることができる。昭和初期には,金融恐慌や世界大恐慌といった経済不況中の失業問題の深刻化により,公園や路上で生活をする人が増加し,無料宿泊所の役割は拡大した。第2次世界大戦後は,宿泊所への社会的ニーズは低下し,施設数は減少していたが,(NPO法が成立した)1999年に突如増加に転じている。2000年代に入ると,(NPOが運営する)無料低額宿泊所が増加する中,劣悪な環境の宿泊施設の存在が指摘されるようになった。法のはざまで困難を抱えている生活困窮者や生活保護受給者に対して劣悪な居住環境や食事等のサービスを提供する一方,そのサービス内容に見合わない高額な料金を請求し,それを生活保護費などから支払わせて利益を得ているいわゆる「貧困ビジネス」の事例が,今日,社会問題化している。